二次創作字書きがなんかすごい小説を書くための4Step



自分が今、字書きとして何に悩んでいて、どうなりたいと願っているのか。

わたしはこれを、長く楽しく趣味の小説を書き続けるために最も大事なことの一つだと思っている字書きだが、人によってはこれに向き合うのは相当難しいらしい。わたしがそう気づいたのはつい最近のことだ。
世の二次創作字書きたちは「なんかすごい小説を書きたい!」という願望を大なり小なり抱えていると思う。すごくて、うまくて、面白い小説が書きたい。けど、理想と現実の差を考えて悩むこともあると思う。それを証明するように、わたしが設置しているマシュマロには定期的にお悩み相談が届く。

「文章の上達方法は?」「需要って考えちゃだめ?」「複数エピソードの合算方法は?」

この通り多種多様な字書きお悩み相談が届くため、ツイッターで回答している。4月には「わたくしたちの字書き読本」という同人誌にまとめて発行、ありがたいことにたくさんの反響をいただき、想定以上の方々に興味を持ってもらった。
それもあってだろう、発行から半年近く経った現在は、発行前よりも多くの相談が寄せられるようになっている。
そして「おや?」と首を傾げることが増えた。

自分が今、字書きとして何に悩んでいて、どうなりたいと願っているのか。

これが記載されていないお悩み相談が増えたのだ。
仕方がないので文面から送信者の意図を推察することになる。マロ主は何に悩んでいて、どうなりたいから、わたしの回答を求めているのか。文章を読み、仕分けし、整理し、分析して、想像する。そして「多分あなたはこういうことで悩んでいて、こうなりたいのだと思う、そういう前提で回答します」という答え方をする。
だが、現状改善のために真っ先にすべきことは現状把握だ。これができていないなら、わたしがどれだけ改善策を提示しても響かないだろう。なので何度か注意事項のアナウンスをした。

「お悩み相談を送られる方は①自分がどうなりたいから②わたしにどんな答えを求めているのか、を明確化してからお願いします」

ところが相談内容が曖昧なマシュマロは届き続ける。

「このお悩み相談は何が言いたいのだろう?」
「このマシュマロは何が悩みなんだろう?」
「このマロ主は、わたしから回答をもらって、どうなりたいんだろう?」

「具体的なお悩み」はあるはずだ。「なりたい理想像」もあるはずなのだ。現に「文面から察するに多分あなたはこういうことで悩んでいて、こうなりたいのだと思う」というわたしの推察には「自分でも分かっていなかったけれどまさしくそれです!」という返事が届く。
悩みはある。理想もある。それでも自分では認識できない。分からない。言語化できない……。
そこで、ふと気付いた。

自分が今、字書きとして何に悩んでいて、どうなりたいと願っているのか。

わたしはこれこそが長く楽しく趣味の小説を書き続けるために最も大事なことの一つだと思っている字書きだが、人によってはこれに向き合うのは相当難しいことなのではないのか、と。
だとしたら、わたしがするべきは「注意事項」のアナウンスではない。「字書き自分の悩みと理想を明確化する思考法」のアナウンスである。
そこにようやく気付いたためこのnoteに至った。
今後お悩み相談を送信される方はマシュマロ送信前に一度実践してみてほしいと思う。けれど、わたしに字書きお悩み相談をする・しないは大した問題ではない。何故なら字書きお悩み相談の本質は「なんかすごい小説」を書くための足掛かりでしかないからだ。自分の上達のためにはこういう考え方もある、という一つの事実が、いつかどこかの字書きのためになったら幸いだ。そう思いながら以下にまとめようと思う。

 

 

二次創作字書きがなんかすごい小説を書くための4Step

自分が今、字書きとして何に悩んでいて、どうなりたいと願っているのか。
これを明確化するための4つのステップは以下の通りだ。

  • Step1 【理想】の詳細化
  • Step2 【現状】の把握
  • Step3 理想-現実=【作戦】の抽出
  • Step4 作戦の【実践】

それぞれのステップ内にも段階はあるが、取りあえずは大別するとこの4つだ。順を追って説明していこう。


二次創作字書きがなんかすごい小説を書くためのStep1【理想】の詳細化

1)【理想】の提示

「読み手を惹き付けるなんかすごい小説が書きたい!」

これが【理想】だ。けれど人によって「なんかすごい」小説は違う。すごくて、うまくて、面白い小説……つまり【理想】は、人それぞれ違う。だから自分にとっての「なんかすごい」小説とは何か? を考えるところから始めよう。
具体的にはどうするか? 「なんかすごい」と今一番思っている本を参考に考えるのがいいと思う。その本はあなたにとってどういう風に「なんかすごい」んだろう? 考えてみよう。

2)【理想】の分解

「なんかすごい」とは具体的に何か? を考える。

とはいえ「なんかすごい」を具体的に言語化するにはトレーニングが必要だ。だからはじめは以下に該当がないか探すところから始めてみてほしい。

  • 設定力…舞台設定、前置き、世界観
  • キャラクター力…キャラ解釈、行動原理・願望・嫌う物・哲学・正義等の設定の仕方
  • 構成力…物語情報の出し方、出す順番、出す量、出す語り手
  • 表現力…語彙、文章の繋げ方、接続詞、文法、慣用句、比喩、「AはBである」を最短で伝える方法
  • 情報力…世界構造、司法・刑法・民法、倫理、ビジネス、学校、組織単位のリアリティをどこまで出すか・出さないか
  • 結末力…締めの一文、最終段落の構成、読後感、読み終わって得るもの
  • 性描写力…プレイ、語彙(淫靡さ下世話さ)、セックスの構成、主導権の割合、常時との変化

あなたの手元の「なんかすごい」本に該当するものはあっただろうか。もし複数あった場合は今一番自分が目指したい「すごさ」一つだけに絞ってほしい。一つも見つからなかった場合は、申し訳ないが、あなたの愛する唯一無二の「すごさ」が何かを、なんとか自力でひねり出してほしい。

3)【理想】の言語化

一つ選んだら、より深く考え、言語化していく。
ここから先はわたしが今一番自分が目指したい「すごさ」を例に挙げて考える。

例)構成力がこんな風に優れている小説は「なんかすごい」

  1. コンパクトで惹き込む起
  2. 全てに意味のある次の情報提示のための承の連なり
  3. 丁寧に積み上げ最大のネタバレまで手綱を離さない転
  4. 余韻と読み心地・満足感を演出する結

こんな風に【理想】の詳細化は完成する。

 

二次創作字書きがなんかすごい小説を書くためのStep2【現状】の把握

1)【理想】と現状の比較

続いては自分のことを見つめる時間だ。

漠然と「下手だな」と思っていても直しようがないので、具体的にどう下手なのかを考える必要がある。というか、下手かどうかはこの際大した問題ではない。大事なのはStep1で弾き出した【理想】にどう近づけるかだ。以下を例に考えてみよう。

  • 自分は【理想】からどれだけ離れているか?
  • 【理想】と自分の間にはなにがあるか?


2)【理想】と比べたときの【現状】

Step1で詳細化した理想と比べて自分はどう劣っているか、具体的に書き出してみよう。

例)構成力に優れていないわたしの小説は「ここが理想と遠い」

  1. だらだらと続きいつまで経っても本題に辿り着かず読んでてかったるい起
  2. とりあえず書けたから書いた承の連なり
  3. 早くネタバレしたいあまり雑で急な転
  4. 〆切までの時間とページ数におもねった唐突過ぎる結

これで【現状】の把握は完了だ。


二次創作字書きがなんかすごい小説を書くためのStep3理想-現実=【作戦】の抽出

1)【現状】を【理想】に近づけるための【作戦】を探す

ここまで【理想】と【現状】を対比させる形で書き出してきた。ではその差を埋めるためにはどうしたらいいか? 距離を詰めていくための作戦を講じる。

例)なんかすごい小説に近づける具体的な作戦

  1. 5000字までに起を完了させてみる
  2. 「転」「結」に辿り着くまでに必要な飛び石=「承」が何かを書く前にピックアップ、並び替えを何通りも試して一番面白く読めると思う順番で書く
  3. 焦らない、落ち着く、神字書きによる神の「転」が書かれた本をキーボードの横に積み、焦るたびに読んでブレーキをかける
  4. ページ数の分かる文字組に直接書かない、シンプルなテキストエディタに、今が何文字か・何ページになったか、が分からない状態にしてじっくり書く

これは必ず一つの話で試し、書き上げて欲しい。途中で書くのを断念した話と、なんとかエンドマークは打てた話では手に入る経験値に大きな差があるし、エンドマークを打ってからじゃないと自分の小説を客観的に見られないのだ。それはつまり、Step4の充実度にも関わってきてしまう。だからなんとか、どうか「書き始めて書き終える」を大前提にやってほしい。

 

二次創作字書きがなんかすごい小説を書くためのStep4作戦の【実践】

1)【作戦】を試してみた【結果】の考察

一度エンドマークを打った自分の小説は、そこでようやく自分から離れ、別のものとして客観的に見られるようになる。ここからが成長の鍵だ。「なんかすごい小説」を書くための秘訣だ。
【作戦】はどんな達成率で、どこが駄目で、どれだけ【理想】と【現状】の距離を縮められたか。それを細かく見ていってほしい。

例)なんかすごい小説に近づける作戦を実践してみた結果

  1. 5000字以内に「起」は書けたが、以降の「承」「転」「結」が長くて、全体としてはダラダラと間延びしている
  2. 承のエピソードを1→2→3→4→5の順番で情報を出したが、1→2→4→5→3の順番の方が盛り上がった。けれどそうすると「転」にうまく繋がらない
  3. 焦らなかったが、焦らないようブレーキを掛け過ぎてテンポが悪くなった
  4. 中途半端なページ数になって、結局結のシーンを色々削除してしまい、やっぱり唐突に終わってしまった

 

2)【結果】を受けた【改善版作戦】

反省点を元に【改善版作戦】を考えてみよう。

例)なんかすごい小説に近づける作戦を実践してみた結果の考察

  1. 5000字以内のコンパクトな「起」といつも通りの「承」「転」「結」のどちらが「この物語として」優れているか・合っているか・正しいか、はたまたどっちも悪いならそれは何故か、を考える
  2. 1.2.4.5.3の順番にしていたら「転」にどう繋げるかを考えて書いてみる
  3. 次は今まで通り一気に書いて、後から雑なところを直す方法を試してみる
  4. 削るなら結だけではなく全体を見て全体から削る、結だけ削ると結局唐突な終わりになる

以降は【実践】【改善版作戦】【実践】【改善版作戦】の繰り返しである。そうやって、【理想】と【現状】の距離を地道に少しずつ縮めていくと、最終的には「なんかすごい小説」……わたしで言うなら「構成力に優れた小説」が書けるようになるだろう。いつかは分からない(わたしなどは5年以上試行錯誤を続けているが未達である)が、少なくとも【現状】よりは確実に【理想】に近づけるようになる。


二次創作字書きがなんかすごい小説を書くための4Stepで大事なこと

大事なのは【作戦】が成功したか失敗したか、ではない。
【理想】に到達できたか、でもない。
【理想】に【現状】を近づけるための【作戦】でどれだけ距離が縮められたかである。
もっと言えば

  1. 【理想】に【現状】を近づけること
  2. そのための【作戦】を練ること
  3. 【実践】してみてどれだけ距離が縮められたか検討すること
  4. 新しい【現状】に即した【改善策】を練り、改めて【理想】に近付けるよう【実践】すること

そうやって考え続ける癖をつけることこそが大事なんじゃないかな、とわたしは思っている。
少なくとも③の段階でお悩み相談を投げられたら「ではこういう【改善策A】はどうだろう?」と提案できる。「自分が今、字書きとして何に悩んでいて、どうなりたいと願っているのか」が分かっていないときに漠然と相談されるよりも、遙かに実のある回答ができると思うし、相談者にも響くだろう。どんなテクニックでもそうだが「何故これをやるのか」を考えてみてほしいなあと思う。そのためにはやはり、どれだけ難しかろうと「自分はどうなりたいのか」を知る必要があるのだ。

 

二次創作字書きがなんかすごい小説を書くための4Stepでつまづく理由

では何故字書きは自分が今、字書きとして何に悩んでいて、どうなりたいと願っているのかと向き合うのが苦手なのか。自分の現状・弱点を正しく言語化できないのには、大別して3つのパターンがあると思う。

  1. 自分の弱点や改善に興味がない
  2. 自分をよくわかってない(考えたことがない)
  3. なんとなく分かってるけど言うと己の実力不足が分かって辛い

大体、この3パターンのような気がする。
①は、そのままで問題ない。趣味の小説だから、やりたいことをやったらいいし、やりたくないことはやらなくていい。弱点克服も上達も、一つの道でしかないので、楽しく書くことが大事なら気にしなくていい。当たり前の話だ。
②の場合は、これから考えてみてくれたらいいなと思う。思考もトレーニングだから始めからうまくはいかないだろうが、それでもめげずに考え続けてほしいなと思う。
③は、大体のところで①と同じだ。やはり趣味の小説だから、己の実力不足と向き合うのが辛かったら向き合わなくて構わない。
でも、だけどももしあなたが「なんかすごい小説を書きたい!」なら。すごくて、うまくて、面白い小説が書きたいなら。今の自分の小説は【理想】から遠くて悩んでいるなら。
Step1-4はあなたの助けになってくれると思う。少なくともわたしはそう信じている。


二次創作字書きがなんかすごい小説を書くための4Stepを通して聞いてほしいこと

繰り返すが、別に頑張る必要はない。頑張りたくなかったら頑張らなくていい。だってやっぱり頑張るのは辛いし、大変だし、きついし、嫌になるし、放り投げたい。寝て起きたら神字書きになってないかな~と大の字になりたい。でもそんな朝はこないので、次に簡単に神になる方法=努力を試そうか、と重たい腰を上げるのが凡人スタイルだ。
付け加えると、それでもわたしはわたしが頑張りたいから頑張っている。頑張ることを茶化すのはもうとっくの昔に飽きたし、頑張っている自分が恥ずかしいとも思わない。自分が楽しく生きていくための作戦を考えることに忙しくて、それ以外は結構どうでもいい。わたしは小説がもっとうまくなって、もっと自由に、もっと楽しく、もっと好きなことをもっと自由自在に、もっとたくさん、もっとどこまでも書き続けたい、そしてそれを読んでもらいたい、読んで面白いって言ってもらいたい、そのために今の自分に足りないものを埋めていきたい! と自分で思っているから具体的に色々やっているだけのハッピー求道字書きなのだ。

書きたいか、書きたくないか。
書きたいならどう書きたいか、どう書いていきたいか、どう書いていったら自分は幸せか。
自分が今、字書きとして何に悩んでいて、どうなりたいと願っているのか。

それを自分で決めること、大事なのはそれだけだ。

上達するためには現状把握は必要不可欠だし、自己分析は誰も代わってくれない。自分で自分を見てあげるしかないし、自分をどっちの方向にどう進めていくかは、自分で考えて自分で決め、自分で進むしかない。わたしなどはちょっとアドバイスをするに過ぎない存在だ。

あなたの字書き道はあなたの前にしかない。

そのことをどうか、忘れないでいてほしいなと願ってやまない字書きだ。

 

いつかどこかの字書きのお守りになりますように。

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